Emergency and Critical Care Medicine救急集中治療医学
病院前救護における情報共有は、主に携帯電話による音声で行われており、客観性に欠ける所見を正確に共有する困難さ、また同時に複数医療機関で共有する仕組みの構築の必要性などが課題としてあげられていた。
まず、取り組んだことは救急現場からの映像伝送であった。これには医療機関側で患者の容態を確認し、その映像を元に救急救命士に指示・指導・助言を行える最低限の映像クオリティが求められた。当時、市販されていた移動体通信の帯域は、現在とは比べものにならないくらい狭かったため、国内外の映像圧縮のためのエンコーダーの検証を行うとともに、実運用で救命士の活動に負担にならないようなシステム構築を目標とした。特に、2004年救急救命士に認められた気管挿管は、気付かれない食道挿管や気管挿管に伴う搬送遅延など解決すべき課題が山積していた。
2011年3月広島市消防局が保有する44台の救急車全てに、車内を映すカメラ、車外活動を映すカメラ、心電図や血圧などの生体モニター情報伝送する機器を搭載し、広島市内にある4つの救命センターに同時に配信するシステムが運用開始となった。導入時、この画像伝送システムの規模は世界でも類を見ない大きさであった。同月に起こった東日本大震災には、このシステムを搭載した救急車が現場に行き隊員の活動を広島市消防局に伝送していた。
導入前に行ったアンケートでは、「監視されている」「救急活動の負担が増える」などの意見が多く見られ、また学会等で報告すると「送られてくる映像の前にずっといることなどできない」など否定的な意見も散見されたが、運用を開始して1年間搬送毎に行ったアンケートでは、医師の90%、救急隊の78%が有効であったと回答している。
特に、ビデオ喉頭鏡の外部出力を接続し、リアルタイムで気管挿管時の映像を伝送することで病院前救護における安全な気管挿管の運用につながっている。また、G2010から推奨されている12誘導心電図も、このシステムでは生体モニターからデータを送っているため、直接生体モニター画面と同等のクオリティで確認することができる。病院前からの12誘導心電図は治療開始時間に効果があり、死亡率を減じることができる。