研究内容

Research Content

重症呼吸不全における体外式膜型人工肺(ECMO)の有効活用をめざした研究

重症呼吸不全における有用性が認められてきている体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)は、極めて優れた有効性を示す一方で、多彩な合併症も起こし得ます。このため、ECMOを安全かつ有効に活用するための指標を見つけることが重要です。私たちの教室では、重症呼吸不全患者の臨床データ、血清タンパク、気道上皮発現タンパク、肺組織病理を多角的に解析することにより、ECMOを有効活用できる早期予測因子を同定する研究を行っています。

次世代シークエンス法を用いた重症呼吸不全患者の病態解明をめざした研究

急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome :ARDS) に代表される重症呼吸不全は、いまだにその病態が完全には明らかにされていない難治性致死性疾患です。私たちの教室では、ARDSの病態形成・病態修飾に未知あるいは微量の病原体が関与している可能性を見出し、末梢気道検体に含まれる病原微生物の全遺伝子情報を網羅的解析する次世代シークエンス法を用いた研究を行っています(京都府立医科大学との共同研究)。
さらに、COVID-19によるARDSと下気道の微生物にも着目し、病態との関連を解明することをめざしています。

急性呼吸不全における呼吸生理解明・人工呼吸器の有効活用をめざした研究

急性呼吸不全における肺保護換気戦略では、一回換気量制限、適切な呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure:PEEP)、高二酸化炭素血症の許容が示されています。しかし、これらの設定法が本当に最善の方法であるか、分子病態生理学的には十分な検討が行われていません。私たちの教室では、食道内圧(胸腔内圧)、経肺圧、横隔膜電位、横隔膜エコーなどの技術を用いて、ヒトおよび動物における肺実質・呼吸補助筋の病理学的変化を検証する研究を行っています。

呼吸音の可視化・自動解析が可能な電子聴診器開発

呼吸音の聴診は、様々な呼吸器疾患や心疾患の診療において広く行われている診察手法の一つです。しかし、種類の判断が難しい呼吸複雑音がある上に、経時的にどの程度変化しているかを定量的に評価する方法もありません。このため私たちは、呼吸副雑音の種類や強さを可視化・自動解析し、データとして長期間保存する電子聴診器を、パイオニア社と共同開発しました。タブレットと併せて使用することで、専門医以外の若手医師や看護師等にとっても、呼吸音の客観的な評価が可能になることを目指しています。

呼吸音の連続モニタリングシステム開発

救命センター・集中治療室・手術室等において、患者さんの呼吸状態増悪を発見するために、呼吸音は重要な診察項目です。しかし、呼吸音は連続モニタリングが困難で、その評価方法(笛声音、水泡音、類鼾音、捻髪音、呼吸音量、呼吸速度・リズム、左右差、継時的変化)も客観性に乏しいのが現状です。私たちの教室では、この問題を改善し、より安全で質の高い医療を提供するため、呼吸音を可視化・自動解析・連続モニタリングするシステム開発を行っています(日本医療研究開発機構(AMED)採択事業)。

呼吸音の遠隔モニタリングシステム開発

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、多くの患者さんが入院、ホテル療養、自宅待機をする機会が増えました。しかし、患者さんは必ずしも医療設備や医療職員が充実した施設に入院できるとは限らない現状があります。このため私たちは、患者さんご自身やそのご家族が手軽に呼吸音を録音し、それを遠隔地にいる医師へ自動的にリモート伝送し、異常所見の自動判定とともに表示できるシステム開発を行っています。これによって医療従事者と患者さんの接触を減らすだけでなく、ホテル・自宅療養している患者さんの呼吸状態増悪を適切に発見することを目指しています(日本医療研究開発機構(AMED)採択事業)。

遠隔モニタリングシステム

間質性肺炎急性増悪の病態解明・新規治療法開発をめざした研究

間質性肺炎急性増悪発症には人種的な差異があり、日本人に好発することが知られています。つまり、間質性肺炎急性増悪の発症メカニズムには、遺伝的・環境的因子が関与している可能性が強く疑われます。私たちの教室では、ドイツとの国際共同研究により、間質性肺炎急性増悪の発症メカニズムを臨床データ・発現タンパク・遺伝子・病原微生物から多角的に解明し、新たな治療標的分子を同定する研究を行っています。

重症COVID-19患者の病態分析および治療の確立をめざした研究

COVID-19に対する治療薬はいくつか開発されてきているものの、重症COVID-19の治療薬はいまだ十分とは言えません。このため、COVID-19の全国レジストリーデータを用いて、重症化因子と治療反応性解析により、治療基盤の確立を目指しています。また、将来発生するであろう新興・再興感染症に対しても応用できるシステム構築を目指しています。

重症ARDSの型分類と個別化治療戦略の確立に関する研究

急性呼吸窮迫症候群 (Acute Respiratory Distress Syndrome; ARDS) はIntensive Care Unit (ICU)に入室する重症患者のおよそ5%に合併する呼吸不全の病態です。通常の人工呼吸管理では血液の酸素化を保てないARDSの最重症例に対しては体外膜型肺(veno venous extracorporeal membrane oxygenation; VV-ECMO)による管理が必要となります。本研究では、VV-ECMOが必要となったARDS患者のCT画像のデータベースを構築し、人工知能 (AI) 技術を用いてCT画像のARDSの所見を客観的かつ定量的に評価し、予想される転帰や病態に応じた表現型(phenotype)を同定することを目指しています (前橋赤十字病院、済生会宇都宮病院、東京医科歯科大学 メディカル統計数理研究部門 生物統計学分野研究室との共同研究)。

人工呼吸器関連事象(VAE)の多施設共同前向き観察研究

VAE(Ventilator-associated event)とは、人工呼吸器を使用した際に生じた呼吸器合併症のことです。VAEは臨床上重要な患者さんのアウトカム(死亡率や人工呼吸器装着期間など)と関連が有ると言われており、VAEを予防することがすなわち患者さんの予後を改善させることに繋がります。現在、広島大学、大阪大学、三重大学等を含む日本全国の集中治療室において、VAEの発生率や臨床経過のデータを収集し、VAE予防策につながる患者管理法を見つけるべく多施設共同研究が遂行中です。

敗血症の病態解明および新規治療法開発をめざした研究

敗血症は発症率が高く、かつ致死率も高い疾患であるため、その病態解明および新規治療法開発は極めて重要な課題です。しかし、これまでの数々の研究結果からは、敗血症が非常に複雑な病態メカニズムを有していることも明らかになっています。私たちの教室では、血清発現タンパク、炎症細胞機能、病原微生物の遺伝子多型、腸内細菌叢変化による免疫系・上皮細胞への影響に着眼し、敗血症を多角的に病態解明することにより、新規治療法開発をめざした研究を行っています。

敗血症関連脳症、重症患者に生じるびまん性神経障害の病態解明

敗血症によりせん妄や意識障害が生じる敗血症関連脳症や、敗血症を代表とした重症患者に生じる筋力低下(ICU-acquired weakness)の原因となるびまん性神経障害について、動物モデルを用いた研究を行っています。

緊急気管挿管に関する研究

緊急時の気管挿管における高い安全性と成功率を実現するため、さまざまなシチュエーションにおける、種類の異なる挿管器具を用いたシミュレーション研究を行っています。

心停止後症候群の重症度分類と個別化治療戦略の確立に関する研究

心拍再開後の低酸素脳症(心停止後症候群)の患者の神経学的予後を集学的治療が行われる前に早期に予測することは、その後の治療方針 (積極的な治療を行うか、看取り医療となるか)に大きな影響を及ぼしうるという点で非常に重要です。我々は、心停止後症候群の神経学的予後を早期に予測するツールであるpost Cardiac Arrest Syndrome before Therapeutic hypothermia score (CAST score)、CAST scoreの簡易版重症度分類であるrCASTを開発しました (Web版: http://www.castscore.sakura.ne.jp、iPhone版: Appleの公式サイトから無料で入手可能)。現在、rCASTの分類上低体温療法の効果が高いと期待される中等度群において低体温療法と平温療法との多施設無作為化比較試験を計画中です(岡山大学との共同研究)。

DPCデータベースを用いた重症救急疾患の診療実態や患者集約化の有効性に関する研究

我が国の代表的な医療データベースであるDiagnosis Procedure Combination(DPC)データベースは、全国の主に急性期の入院患者を対象としており、診断名、診療行為、転帰、診療報酬などの様々な情報が含まれています。近年、DPCデータのように実際の医療現場から得られたデータ、すなわちリアルワールドデータを用いた研究が注目されています。当教室では、産業医科大学公衆衛生 学教室の協力のもと、DPCデータベースを用いて重症救急疾患の診療実態や患者集約化の有効性などに関する研究を行っています。

救急災害現場におけるICTおよびIOTの利活用

臨床研究と平行して、ICTおよびIOTを利活用した病院前救護、災害時における情報共有プラットホームや情報ネットワーク上にデータを送るプラットホームおよびデバイスの研究と医療機器等の研究開発を産学官連携で行っています。

ドクターヘリの有効活用をめざした研究

ドクターヘリは、傷病者発生現場へ医療資源とともに医療スタッフを送ることにより、傷病者の診断・治療開始・適切な医療機関選別・搬送のすべての時間を短縮し、患者の救命率向上を図る技術です。しかし、特殊な環境下で行う医療行為であるために、特殊な知識・技能も必要となります。私たちの教室では、ドクターヘリの有効活用実現・技術向上をさせるため、情報ネットワークおよび搬送システム改良をめざした研究を行っています。また,航空医療学会のオンラインレジストリに参加しています。